2015年の税制改正により、相続税の基礎控除が引き下げられました。これによって今まで相続税がかからなかったリタイアメント層にも、相続税がかかる可能性が出てきております。ここでは相続対策をする上で意識すべきものとして「 遺留分 」というものを解説します。
相続対策の盲点?「遺留分」について解説
▽ 目次
「遺留分」?忘れてはならない相続人の権利
遺留分とは、民法第1028条の「遺留分の帰属及びその割合」の条文より来ており、簡単にまとめると、兄弟姉妹以外の相続人が最低限権利を主張できる権利分のことを言います。例としてある家庭を想定します。
佐藤さん一家
Aさん(ご主人・75歳)金融資産1億円
Bさん(奥様・70歳)
Cさん(長男・30歳)
Dさん(次男・25歳)
Aさんが「自分が死んだら、一番可愛がったCに全部資産を渡したい!」と遺言書を書いたとします。相続において遺言書の内容は最優先になりますので、ご相続が発生した場合にはAさんの資産の1億円はすべてCさんが受け取ることができます。
しかし、これをBさんとDさんが面白いと思うでしょうか?同じ生計で生活してきたわけですので少なからず資産を受け取る権利を主張したくなると思います。そんな状況で主張できる権利が遺留分になります。
「遺留分」は誰がいくらまで主張できる?遺留分の範囲と割合
相続において同様に法定相続人の範囲が決められておりますが、配偶者及び子供、父母、兄弟姉妹までとなっております。一方で遺留分は配偶者及び子供、父母までの範囲となっております。
そこで上記の佐藤さん一家を当てはめるとBさんもDさんも権利主張できることになります。では一体いくら請求できるかと言いますと、配偶者や子供がいる場合は相続資産の2分の1まで権利を主張できます。それ以外で父母しかいない場合は3分の1までとなります。
具体的に申しますと、Bさん、Cさん、Dさん合わせて、Aさんの金融資産1億円の内5,000万円まで権利を主張することができ、Bさんは2,500万円、CさんとDさんは各々1,250万円まで主張できます。先にAさんが遺言書を書いておりましたが、遺留分を意識した上で配分すると、
Bさん2,500万円
Cさん6,250万円
Dさん1,250万円
となります。
税制改正と遺留分請求によって、「争続」のリスクも?
これまでは5,000万円+法定相続人の数×1,000万円までの相続財産に対しての相続税がかかりませんでしたが、2015年からは3,000万円+法定相続人の数×600万円に控除額が引き下げになりました。
佐藤さん一家で例えると、以前までは8,000万円までは相続税がかからなかったのが、現在では4,800万円以上は相続税課税対象になってしまいます。
となると遺言書通りに相続税を計算すると、Cさんが払う相続税は以前では200万円であったのが、現状では630万円と増えてしまいます。
別に自分が払うわけではないし、ある資産から払ったら良いと考える方もいらっしゃるとは思いますが、少なからず税金を払いたいと思っている人は多くないと思います。
ましてやCさんが可愛いから残したいというご意向なのであれば、尚更相続する手取りが減ることが明確です。またCさんには遺留分を請求されるリスクもあり、「争続」になる可能性があります。
「争続」を避けるためにも遺留分を意識した相続対策を!
ただ、遺留分に関しては必ずしも請求されるわけではありません。一般的にはAさんの相続が発生した場合、遺言書の有無を確認します。有の場合は遺言書を法定相続人全員(Bさん、Cさん、Dさん)で確認した上で印を押すことによって遺言が認められます。
遺言書の内容に納得が出来ない場合、BさんとDさんがCさんに対して遺留分減殺請求することで遺留分侵害部分を主張することが出来ます。この権利は遺留分侵害を認識してから1年以内、もしくは認識をせずに10年経過した場合が時効となります。
しかしながら、Aさんのご意向通りに相続できたとしても、元より家族と話し合いをした上での遺言でなければ、家族同士に傷が入る可能性も秘めていることは認識しておくべきであります。
「遺留分」を考えた上での具体的な対策は?
まず遺留分を意識する以前に、相続対策として有効的なのは生命保険を活用した対策です。
生命保険を使うメリットとして①法定相続人の数×500万円まで非課税財産とすることが出来る点、②受取人を指定することで相続人の固有財産として渡すことが可能である点を挙げられます。
佐藤さん一家ですと2,000万円までの生命保険は非課税となりますので、1億円という金融資産から2,000万円を控除した上で、相続税の計算が可能となります。よって相続税を圧縮することができます。
また、保険は「誰にいくら残すか」という遺言の代わりにもなり得るため、もしAさんがCさんに多く残したい場合は生命保険を使うことのメリットは非常に高いです。また、その上で遺留分だけはBさんとDさんに資産が渡るように遺言書に記載することで、「争続」を回避できます。
まとめ
相続対策の盲点?「遺留分」について解説
「遺留分」?忘れてはならない相続人の権利
「遺留分」は誰がいくらまで主張できる?遺留分の範囲と割合
税制改正と遺留分請求によって、「争続」のリスクも?
「争続」を避けるためにも遺留分を意識した相続対策を!
「遺留分」を考えた上での具体的な対策は?