遺言をもってしても侵すことのできない、法定相続人の絶対的権利が遺留分です。その権利を自ら手放す 遺留分放棄 には、どのような意味があるのでしょう。その疑問にお答えするとともに、遺留分放棄を行うための手続きや注意点についても解説いたします。
不可侵の相続分である遺留分と、遺留分放棄について考える
遺留分とは
遺留分は、民法1028条によって規定されており、一定の法定相続人が最低限相続できる財産のことです。遺言書などに記載された、被相続人の意思は尊重されなければなりませんが、遺留分を侵害することはできません。
たとえば、被相続人が「自分が死んだら、自分の全財産を愛人に贈与する」という内容の遺言を書いたとしても、一定の法定相続人は遺留分に関して遺産を受け取ることが認められています。
遺留分は、法定相続人に認められた権利ですが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。したがって、「一定」の法定相続人という表現になっています。
遺留分放棄とは
一定の法定相続人に認められた、最低限の相続分を保証した遺留分を自ら放棄する行為を、遺留分放棄といいます。遺留分放棄を行うと、遺留分の侵害を受けた場合でも最低限の遺産でさえ受け取ることができなくなります。
遺留分放棄は、被相続人が「自分が死んだら、遺産の全てを長男に相続させる」という内容の遺言を残し、さらに法定相続人もその遺言の内容に同意しているような場合に申し立てられます。つまり、遺産を特定の相続人に集中させたい場合などに用いられます。
遺留分放棄の効果
遺留分放棄をすると、遺留分減殺請求を行うことができなくなります。ここで注意していただきたいことは、遺留分放棄は相続放棄とは異なるということです。
遺留分放棄をしても、遺留分放棄者は法定相続人としての地位を失うわけではありませんので、相続が開始すれば遺産を相続する権利を有します。もし遺贈による遺留分侵害があったとしても、遺留分侵害の原因となる遺言とは別に遺産分割を行うことは可能です。
また、遺留分放棄者が被代襲者である場合には、代襲相続人も遺留分減殺請求を行うことはできません。
代襲相続とは、本来相続人となるべき人が相続開始前に死亡した場合などに、その子や孫が代わって相続人になることです。本来相続人となるべき人が「被代襲者」、その子や孫が「代襲者」です。
遺留分放棄の手続き
遺留分放棄を相続開始前に行うには、遺留分権利者からの遺留分放棄許可審判の申立てが必要になります。申立ては、管轄の家庭裁判所に対して行う必要があり、家庭裁判所は以下の3つの基準をもとに、遺留分放棄の許可・不許可の決定をすることになります。
- 申立ては、遺留分権利者の自由な意思に基づいて行われたものか(被相続人などからの強要を受けていないか)
- 遺留分放棄に合理性と必要性があるか
- 代償性(遺留分に見合う財産が事前に与えられるのか)があるかどうか
家庭裁判所から遺留分放棄の許可が出された後に事情が変わり、遺留分放棄を許可することが相当でないと判断した場合は、家庭裁判所は職権で許可審判を取り消すことができます。
また、相続開始後の遺留分放棄においては、家庭裁判所の許可は不要です。遺留分放棄は、権利者の判断に委ねられることになります。
遺留分放棄の注意点
相続放棄をした場合に、他の法定相続人の相続分は増えますが、遺留分を放棄しても、他の遺留分権利者の遺留分には影響を与えません。
説明いたしましたように、遺留分放棄を行っても相続権を失うわけではありません。被相続人に負債があった場合は、遺留分放棄を行った相続人も相続分に応じた負債を相続しなければなりません。
まとめ
不可侵の相続分である遺留分と、遺留分放棄について考える
遺留分とは
遺留分放棄とは
遺留分放棄の効果
遺留分放棄の手続き
遺留分放棄の注意点