相続において軽からざる重石となる相続税。課税対象範囲が大幅に拡大したいま、非課税制度の活用など、節税についての関心は以前より高まっています。なかでも通例通り子供に 遺産 を 相続 させるよりも節税効果の高い 孫 への相続で、より効果的な税の圧縮を図るケースが増えています。
世代を飛ばして合法に課税回避できる孫への遺産相続
「足し戻し」という制約
平成27年元旦以降、相続税の課税範囲が拡大されると同時に税率もアップし、資産家にとっては節税がかつてより切実なものになりました。一方、これまで相続税とは無縁だったはずの新たな対象者も、その対策と向き合わなければならなくなりました。
そこで、最も簡単にできる年間110万円まで非課税となる生前の暦年贈与が今まで以上に活用され始めました。とはいえこれは、ひとりの相続人に対して上限110万円まで、という金額的な限界から、相当計画的に行わなければ効果は限定的です。
そのうえ、被相続人が亡くなり、相続が開始されたときから3年前までの暦年贈与分は、「足し戻し」といって残りの遺産と合算しなければならないルールになっています。
これは、駆け込み的な節税をさせないためのもので、たとえ計画的に暦年贈与してきていたとしても、相続人一人あたり最大330万円は課税対象に戻されてしまうということになります。
「足し戻し」しなくてもよい孫への贈与
子への相続の場合には適用される「足し戻し」も、その相手が孫の場合には適用されません。したがって仮に駆け込みであっても、年110万円以内なら相続発生直前の分までが非課税の贈与分として認められます。
また、より高額な贈与を可能にするのが、最大1,500万円までの教育資金の一括贈与制度です。贈与された孫はこの資金を30歳までに使い切らなければならないという条件はありますが、この制度もまた「足し戻し」が不要で、被相続人が亡くなる直前での利用も認められています。
最大2,500万円までの相続時精算課税制度というさらに高額な非課税枠が利用できる制度がありますが、これは65歳以上の祖父母から20歳以上の孫に対してしか使えず、「足し戻し」もしなくてはなりません。
さらにこの制度を利用するには暦年贈与の利用を放棄しなければなりません。その点、教育資金の一括贈与制度は、暦年贈与との併用も可能です。
養子縁組で孫を法定相続人に
通常の場合、遺産の相続にあたって孫は相続人の権利を持ちません。たとえば本来の相続人であった子供、つまり孫にとっての親が、孫よりも先に亡くなってしまったような場合には、代襲相続といって孫が法定相続人に繰り上がります。
しかし、本来の相続人が健在であっても被相続人が孫と養子縁組することによって、孫を法定相続人に加えることができます。このことによるメリットのひとつは、相続税の基礎控除額を増やせることです。
現在の相続税の基礎控除範囲は、3,000万円+相続人数×600万円です。したがって、養子縁組で法定相続人が一人増えるたびに控除範囲が600万円分拡大します。
ただし、養子縁組できるのは、血のつながりのある孫2人までが限度ですので、最大でも1,200万円までということになります。
相続税を1回分回避する「代とばし」
基礎控除の範囲拡大のほかにも、孫を法定相続人にすることによるメリットがあります。
それは被相続人→子供→孫という通常の相続経路が、被相続人→孫という経路になって、相続が1世代分少なくなるため、相続税が一回分回避できることです。またこの「代とばし」効果を最大限活用できるケースが、被相続人が一人で暮らす持ち家がある場合です。
このとき、孫以外の法定相続人がみなすでに持ち家を持っていれば、養子縁組した孫が被相続人の持ち家を相続すると、最大330㎡までの居住用の土地に対する特例、「小規模宅地の特例」を受けることができ、土地の課税評価を最大8割まで減じてもらうことができます。
バランスを損なわない範囲の対策を
孫かわいさや、節税を追及するあまりの過剰な対策は相続人間のトラブルの種ともなり、かえってデメリットばかりになりかねません。資産規模にみあった対策と、孫を含めた相続人にとっての真に有益な相続を冷静に考える必要があります。
なによりも相続にばかり目がいって、肝心の自分の生活資金確保の見積もりを誤らないようにするべきです。相続人の数や財産の内訳などによっても事情は違いますが、金融資産でいうなら5,000万円程度までなら、暦年贈与の範囲でシンプルに財産をシフトしていくのが最善でしょう。
まとめ
世代を飛ばして合法に課税回避できる孫への遺産相続
「足し戻し」という制約
「足し戻し」しなくてもよい孫への贈与
養子縁組で孫を法定相続人に
相続税を1回分回避する「代とばし」
バランスを損なわない範囲の対策を