高齢者社会を迎えた日本において、介護問題はもはや誰にでも訪れる可能性があります。しかし、手をかけただけ日々成長してくれる子育てと違い、 介護 は一つずつ体機能が失われていく日々を経験しなければなりません。耐えきれず起こってしまった、介護者による 事件 について解説します。
介護の行く末は不幸な事件でしかないのか
老々介護の果てに
核家族化が進んだ日本では、配偶者が要介護となったときに、その主な世話を負わなければならない現状があります。90代の夫や妻を、同じように高齢の配偶者が介護する姿も珍しくありません。
老々介護は、より若い世代が介護にあたるよりも重苦しい雰囲気が漂うのが特徴です。介護者自身も体が衰えているところに、介助などの体力的なお世話をしなければならず、「どちらが先か」と考えあぐねる毎日が続きがちだからです。
2014年11月に千葉で起きた老々介護殺人事件は、その苦しさを象徴しています。要介護の妻に頼まれ、93歳の夫がネクタイで首を絞めて殺害したのです。介護疲れをおもんばかった温情判決により、殺人事件にもかかわらず執行猶予付きとなった印象的な事件でした。
また、2016年4月には、82歳の夫が認知症の妻を殺害する事件が起き、「自分が死ねば、妻の面倒をみる人がいない」と悲惨な供述を残しています。こちらは電気コードで妻の首を絞めたということで、老齢で体力が衰えるなか、それでも力を振り絞って殺害に及ぶ痛々しい姿がみてとれます。
「家族」が悲惨な事件の加害者になる
老々介護による殺人と同じように、またはもしかしたらそれ以上に悲惨なのが、介護者である子が親を殺める事件です。親殺しは、戦前であれば尊属殺人といわれ、重罪となりました。そんな大変な犯罪が、多くの媒体で同情的に報道されるのは注目すべきことでしょう。
親子間での介護殺人について語るとき、年数を経た今でも引き合いに出されるのが、2006年に京都で起きた認知症の母親殺害事件です。
息子は介護をしながら働き口を探すも見つからず、困窮に陥り、最終的には母の首をナイフで刺します。心中のつもりではありましたが、自殺に失敗して逮捕となった悲劇です。
判決では、裁判官が目を潤ませ「今後、お母さんのためにも、あなた自身は幸せに生き抜いてほしい」と温情判決を出したにもかかわらず、この息子は2016年1月、琵琶湖周辺で遺体となって発見されています。息子とみられる男性が橋から湖に身を投げる姿を、目撃した人がいるとのことです。
介護職員のストレスが暴力を生んだか
介護にまつわる事件は、在宅介護だけで起こっているわけではありません。介護施設でも、虐待などの事件が相次いでいます。全くの他人が虐待を行ってしまうという事態は尋常ではなく、職員側にもやむにやまれぬ事情があるのが一般的です。
ただし殺人にまで至ってしまっては、どういった言い訳も許されないでしょう。2016年の11月に川崎市で発生した老人ホーム連続殺人事件は、世間に衝撃を与えました。要介護の入居者が次々と転落死体で見つかり、元職員が殺害容疑で逮捕された事件です。
同じ施設では、他の職員による虐待や暴言なども絶えない状態であったことが、その後の調査でわかってきました。施設にある母親の部屋へ監視カメラを仕掛けたところ、ヘルパーが母親を乱暴に扱う姿が見つかったという報告もあります。
厚労省によると、平成26年度において要介護施設従事者等の高齢者虐待と認められた件数は、およそ300件です。これは前年度より79件も増加していますが、相談や通報を受理した件数をみると、1,120件にも上っています。300という数字は、氷山の一角と考えてよいでしょう。
高齢者虐待の相談所がある
あまり知られていませんが、児童虐待と同様、高齢者の虐待についても相談所が設けられています。各地域の包括支援センターなど、各市区町村で窓口が設置されていますので、問題を感じたときには調べて電話をしてみましょう。
高齢者虐待防止法に則り、通報者、相談者を守る仕組みがあり、情報は一切漏らされません。
参考資料「介護殺人の現状から見出せる介護者支援の課題」
厚労省調査「平成26年度 高齢者虐待対応状況調査結果概要」
まとめ
介護の行く末は不幸な事件でしかないのか
老々介護の果てに
「家族」が悲惨な事件の加害者になる
介護職員のストレスが暴力を生んだか
高齢者虐待の相談所がある