現役世代が引退世代を支える年金制度の構造は、加入者と受取人が違う保険のようなものです。にもかかわらず現役世代は一定期間の支払い義務を果たさなければ将来の 年金 の 受給資格 が得られません。
ところが間もなくこの期間が短縮されます。これはどんな影響をもたらすのでしょうか。
年金の受給資格期間短縮は福音となるのか
受給資格期間の大幅短縮
平成28年1月現在の年金の受給資格条件は、国民年金のほか共済年金、厚生年金などいずれかの年金に加入し、合計の納付期間が25年以上あることです。
ただし、現在のように20~60歳までの国民に年金への加入が義務化されたのは昭和61年4月からなので、この時点で年金未加入かつ年齢が35歳以上になっていた人を切り捨てないための救済措置もあります。
ただし、これは未加入期間を受給資格の25年に算入してよいというだけで、未払い期間分の年金は減額となります。いずれにせよこの25年を満たさなかった場合、現状は1円も年金を受給できません。
ところが現政権発足後、消費税増税へのロードマップが発表され、二段階目の10%への増税にともなって年金受給資格期間が10年に短縮されることになりました。
これは増税と資格期間短縮が不可分となっているため、増税の延期により現在はまだ実施されておりませんが、2017年の今年4月には実施されることが確定しており、まもなく受給資格期間も10年に短縮されることになります。
期間短縮で考えられる負の影響
現状では、10年間程度ではいうまでもなく、たとえ24年間納付した場合でも年金は一切支給されません。25年というハードルが越えられないとわかったとたんに納付のモチベーションはゼロになり、それがこれまで未納・滞納者を作る原因にもなってきました。
この期間が一気に半分以下の10年に引き下げられれば、10年以上25年未満の納付者を無年金から救えます。
一方、現状では掛け捨て的な扱いで召し上げていた25年未満の納付金の多くを支給にまわさなければならなくなります。
また、10年間程度の納付で得られる年金では老後の生活資金としては全く不十分であり、結局はそれ以上長期の納付がなければ焼け石に水となるのが実情で、納付義務を促進する効果はきわめて限定的と想像されます。したがって年金財政の収支はむしろ悪化する恐れがあります。
タイミングでアウトとなるケース
60歳の誕生日を目前に控えた時点で納付期間が25年未満だった場合でも、10年以上納付していれば受給資格期間の短縮により無年金からは確実に救われます。
ところが同じ条件で納付期間がたとえば9年間プラス数ヶ月だとしたら、4月の時点でぎりぎり10年に達しないでタイムアウトということが起こってきます。先の消費税増税延期決定の際にも当然このような不幸を生んだに違いありません。
一般的な老齢基礎年金ではなく、人工透析を受けなければならないなどの障害に見舞われた際の障害基礎年金の場合にも時間の壁が立ちはだかることがありえます。
現時点ですでに10年以上の納付実績があったとしても、万一受給資格期間短縮の実施直前に障害の初診を受け、この月の前々月までの年金加入期間の2/3にあたる期間を滞納なく納付していなければ、現行法が適用されてしまい受給資格が得られないからです。
不安定な運用によるしわよせ
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による国民の年金資産の運用についてはこれまで安全資産中心に行われてきました。ところが現政権の方針を受け、いまでは一転してリスク資産運用の比率が高まっています。
なかでも株式投資の比率は従来の12%から25%にまで引き上げられました。その結果一時的に株高を演出する立役者ともなりましたが、現在では全世界で様々なリスク要因が次々顕在化し、世界的株安に陥っています。
円高による為替差損も手伝って現時点の含み損は10兆円を超えてしまったともいわれています。
こうした運用成績次第でも、またいつ年金制度は変更されるかわかりません。つきつめれば年金の受給資格とは、他力本願に耐えられるしぶとさなのかもしれません。
まとめ
年金の受給資格期間短縮は福音となるのか
受給資格期間の大幅短縮
期間短縮で考えられる負の影響
タイミングでアウトとなるケース
不安定な運用によるしわよせ