平成27年元旦からはじまった新たな 相続税 制では、 基礎控除 を従来の6割にまで引き下げる改正が行われ、納税対象者を大幅に増やしました。さらに税率もアップし、世界においても日本の相続税は最も負担の重いものとなりました。一体、その背景には何があるのでしょうか。
相続税の基礎控除引き下げは不可避な時代の要請
当事者が増えて進む相続税の大衆化
誰もが身近に感じる消費税などと違い、これまで庶民には無縁のものと思われてきたのが相続税です。また実際にも資産が5,800万円未満の人々にとっては無縁なものでした。ところがこのボーダーラインが6掛けの3,600万円にまで引き下げられ、対象者が一気に増えることになりました。
とくに東京23区内の住民では25%が該当者になるともいわれています。こうして従来は他人事と思っていた人たちが次々と当事者になることで、相続税は一気に身近なテーマとなりました。
税制改正の目的
相続税に限らず、税金には富の再分配という機能があります。富の再分配とは税金などで吸い上げた資産を、福祉や社会資本の充実といった方法で経済的弱者へ分配し、それがひいては社会全体の安定や成長をもたらすという考えです。
この機能をもっと働かせるために従来より広い対象、かつ、富裕層により高い負担を負ってもらおうという意図が今回の税制改正にはあります。
それがこの基礎控除の4割引き下げ、そして資産額が2億円を超える層に対する税率のアップです。また、2億円未満の税率は従来と同じということからも、富裕層への高負担化の意図は明らかです。
しかしそこには、単なる富の再配分にとどまらない政府の狙いも垣間見えます。経済を何よりも第一に優先するという現政権が、1,500兆円ともいわれる日本の金融資産が高齢者層に偏在し、なかなか下の世代へと移転していかない現状こそ経済発展の阻害要因と考えていることは間違いありません。
NISA,ジュニアNISAなど次々と打ち出す政策同様この相続税の改正にも、停滞する資産の流動化を促す狙いがあるといえます。そこには、相続税増税のもうひとつの側面である節税対策が活発化されることによって実現される資本の移動も目論まれています。
活発化する相続税対策がもたらす流動化
相続税対策として最も手軽で簡単な方法が生前贈与です。手続き不要で年に110万円までなら非課税で贈与することができ、これを利用すれば課税対象となる財産を110万ずつ減らしながらその分を実質的に無税で相続することが可能だからです。
しかし相続開始の3年前までの分は課税対象になってしまうため、早いうちからこの暦年贈与をはじめる動きが目立ってきました。
このほか1,500万円まで非課税となる教育資金の一括贈与、不動産の大幅な課税評価減を図るための保有地への賃貸住宅の建設、生命保険への加入、非課税財産と見なされる墓や仏具の購入など、様々な節税対策がいろいろな問題もはらみながら活発化してきています。
一方でこうした動きは、タンス預金や銀行定期、あるいは更地という形で固定化されていた不動産資産などを、賃貸住宅や学費などの生きたお金として流動化させることに一役買っていることも事実です。
相続税の課税根拠の変遷
相続税課税は、賛否両論あるなかで所得税を補完するものとして戦前にはじめられました。当時の大蔵省が課税理由としていたのは、「遺産の偶然の帰属による不労所得に対する課税」というものでした。戦後になってここに、格差の是正と富の再分配という考えが加わりました。
そして現在はさらに、「給付と負担の調整」という考え方が加わっています。そこには国の財政難という問題が横たわっており、高齢化の進展による介護の要請と、老齢者の生活保障のコストを少しでも賄うための財源を確保せざるをえないという事情もあります。
そもそも、5,000万円+(法定相続人数×1,000万円)という従来までの基礎控除は、バブル期の地価上昇に対処するために引き上げられた設定でした。今回引き下げられた基礎控除は現在の経済状況に即したものとも考えられ、単純な増税とは必ずしも言い切れません。
とはいえどんな理屈があってもすんなり納得できないのが税負担というものです。特にさらなる消費税の増税が予定されている中では、この相続税の基礎控除の引き下げによる痛税インパクトは決して少なくありません。
これからも増すことこそあれ減ることは考えづらい増税トレンドのなかで、資産防衛と生活防衛のためにできる限りの節税努力を続けていくしかありません。
まとめ
相続税の基礎控除引き下げは不可避な時代の要請
当事者が増えて進む相続税の大衆化
税制改正の目的
活発化する相続税対策がもたらす流動化
相続税の課税根拠の変遷