相続は財産を持っている人が亡くなることによってしか発生しません。したがって生前のうちには相続することはもちろん、放棄することもできません。では、相続人や 被相続人 があらかじめやっておけることはないのでしょうか。また、相続人の責任範囲はどこまでなのでしょうか。
相続人は被相続人の責任をどこまで負うのか
相続発生前に対処できること
もし相続資産が現金だけなら、法定の分割割合に応じて分ければ済むことです。しかしそのようなケースは極めて少なく、主な財産は家だけというのが最も多く見られるパターンです。
被相続人が暮らしていた家に長女一家が2世帯で同居していたとしたら、相続発生後も長女一家はそのまま居住を続けることになるのが一般的です。
法定相続人たる他の兄弟もこれに同意し、むしろ長女に両親の面倒を見てもらうことも考慮して、自分たちは相続分を一切主張しないつもりでいたとします。
しかし相続発生の前後から、ある兄弟が例えば投資や事業で経済的に苦しい状況になってしまい、背に腹は変えられず自分の相続分を要求する、といった事態が起こらないとは断言できません。
そしてたとえ被相続人が、念のために遺言書で長女への単独相続の意思を書き遺していたとしても、遺留分を主張されればその分は分割しなければならなくなります。遺留分とは遺言書に縛られない最低限保障された相続分のことです。
もし遺留分の主張により分割することになり、そのとき長女に相当分の現金がなければ、家を売却して資金を作るしかなくなってしまいます。
このような場合に、生前の兄弟が円満なうちに打っておける対策があります。それは長女の単独相続を確実なものにするために、他の兄弟に遺留分を放棄させることです。
ただし、相続人の意思に反した被相続人による強制的な遺留分放棄ではないことが証明されるよう、家庭裁判所による審理・許可が必要になります。
債務財産の放棄
歓迎すべかざる相続、すなわち借金などの負債の相続から相続人を守るために、相続の放棄というものが認められています。これによって、自分には何ら責任のない負債を背負うようなことはなくなりますが、手続きには期限があります。
それによれば「自分に(負の)相続が発生したことを知ってから3カ月以内」となっています。これは被相続人が亡くなった日から3カ月と必ずしもイコールではありません。
まず負の遺産が存在することを知らなければなりませんし、その相続人が自分であることも認識できている必要があるからです。
これらの認識を持てたと客観的に認定されなければ、仮に相続発生から1年以上経過していても手続きは期限切れにならないということです。
また、相続放棄とはすべての被相続人の財産を放棄するという意味ですので、負債もあるが資産もあるという場合でも都合よく負債だけを放棄することはできません。
相続財産に含まれないもの
負の財産を引き継ぐことからまぬかれるためには、相続放棄という手続きを踏めばよいのですが、そもそも相続財産にカウントされないものもあります。
それは「一身尊属的な権利や義務」と認められるもので、言い換えれば、「被相続人本人だけに属する権利や義務」、というものです。
たとえば被相続人が生活保護費を受給していた場合の受給権や、公団住宅に居住していた場合の居住権などは一身尊属的な権利となり、相続財産とはなりません。
被相続人が知人の身元保証人になっていた場合、その責任を相続人が引き継がねばならないのかという時も、これは一身尊属的な義務とみなされ、やはり相続財産にはなりません。
ただし、身元保証人としての責任義務がすでに相続開始以前に発生している場合はこれをまぬかれることはできません。
具体的には生前に身元保証人の責任として金銭的な負債が発生してしまっている場合です。もちろん、この債務も相続放棄することが可能です。
被相続人の生き様が露わになる相続
相続は被相続人の出生にまで遡って戸籍を調査し、すべての相続人を洗い出すことから始まります。その過程で婚外子の存在が明らかになることもあります。そしてその子をひそかに生命保険の受取人に指定していたことが判明するかもしれません。
また、誰かの保証人となり、家族も知らない負債を抱えているかもしれません。しかし相続人は、ことに親子のような血縁の相続人の場合は特に、被相続人のそうした足跡を結果として受け入れざるをえません。
そのうえで、その責任を引き継ぐべきか放棄すべきかは相続人自身が判断しなければなりません。
まとめ
相続人は被相続人の責任をどこまで負うのか
相続発生前に対処できること
債務財産の放棄
相続財産に含まれないもの
被相続人の生き様が露わになる相続