年金 の受給開始年齢は原則65歳からで、 繰り上げ も繰り下げも選択可能になっています。長生きをすれば繰り下げたほうが受け取り総額が多くなることは間違いありませんが、先の見えない年金制度と神のみぞ知る寿命とを鑑みたとき、本当にお得なのはどちらなのでしょうか。
年金は繰上げで受給したほうがお得!?
受給開始年齢引き上げの歴史
かつて企業の定年は55歳の時代があり、それにあわせて年金の支給開始も55歳からでした。これが男女で引き上げ時期に時間差をつけながら段階的に引き上げられていき、ついに2000年の改正で原則65歳からとなりました。
しかしこれは国際的に見ると決して遅くはなく、平均的な設定となっています。
定年延長のデメリットもあるが…
年金の支給開始年齢の引き上げにともなって、企業にも定年延長の動きが見られるようになってきました。
これは年金財政にとって助け舟となると同時に、まだまだ元気で経験も豊富なシニア人口を有効活用することにもつながり、1億総活躍のスローガンを掲げる現政権にとっては歓迎すべき状況といえます。
しかしそのせいで「後がつかえる」ことになり、若年者の雇用機会を奪う可能性があります。現在はまだ、労働市場の需給は逼迫しており、売り手市場の状態です。しかしフランスのように、若者の雇用を圧迫させない目的で、年金の受給開始年齢を引き下げたという事例も存在します。
東京オリンピックが開催される2020年には、AI(人工知能)の進化により雇用の大部分が人間から奪われるという予測も出されています。しかしたとえそうなっても、結局は財政事情の改善なくして支給条件は向上しようがありません。
年金にまつわる収支の見通し
いま、年金財政健全化に向け、年金保険料の徴収率改善のうごきが大変活発になっています。しかし、加入者自身による積み立て型ではなく、若い世代が支えるという年金制度の構造的な欠陥の前では、その効果はきわめて限定的といわざるをえません。
しかもこのまま少子高齢化が加速すれば、支える世代よりもらう世代のほうが多くなりかねません。
加えて心配なのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による年金資金の運用です。
知られている通り、国債などの比較的安全な資産から株などのリスク資産の運用比率を一気に増やしたGPIFは、2015年前半の株高を自ら演出したものの、年後半以降は海外要因により株式相場が低迷し、現状では10兆円にのぼる含み損を抱えているといわれています。
このような運用の失敗が続けば、将来、年金制度は崩壊する可能性すらあります。
時間割引率が高くなっていく高齢者
今日1万円もらうか1年後に1万2,000円もらうか、という問いに対する答えは、時間割引率が高い傾向の若者ほど今日の1万円と答えるといいます。これは、実際には報酬は高くなるのに、獲得までに時間がかかると報酬の価値が下がってしまうかのように感じているためです。
一方、気長に待ってでも実質的に高い報酬を得ようとすることができる場合は時間割引率が低いといわれます。そして時間割引率は経験豊富で自制がきく冷静な人ほど低くなっていくといわれます。
高齢者はその点で一見後者のようですが、実際には次第に前者の傾向が強まっていくと考えられます。なぜなら残された時間が多くないからです。年金の繰上げ受給は損だ、むしろ繰り下げ受給せよ、という主張には必ず長生きするという前提が不可欠です。
しかもこれは、生涯年金受取額という金の損得勘定のみに限定した話です。繰り下げた年金をもらう頃に今と同じように生き生きとしていられなければ、お金の価値はむしろ下がると言っても過言ではありません。
健康で暮らせる間にもらえるお金のほうが価値があると考えれば、時間割引率は高くならざるを得ないのです。
それでも繰り下げる高齢者の存在
1年後より今に重きを置く時間割引率の高い高齢者が大多数だとすると、それでも繰り下げを選択する高齢者像とはどんなものなのか。その多くは、今でも収入を得ている経済的現役者や資産家といわれる人達です。
彼らは経済的余裕と同時に、健康についても自信を持っている場合が少なくありません。つまり、健康長寿を全うしようとする意欲が旺盛だということです。
繰り上げ繰り下げの判断は自己責任であり、その結果得になるも損になるも、結局は生き方次第で決まるということかもしれません。
まとめ
年金は繰上げで受給したほうがお得!?
受給開始年齢引き上げの歴史
定年延長のデメリットもあるが…
年金にまつわる収支の見通し
時間割引率が高くなっていく高齢者
それでも繰り下げる高齢者の存在