だれでも簡単にできる相続税対策としてひろく認知されているのが、年間110万円まで非課税となる現金の 生前贈与 です。ところがこれについて正しい知識を持たない人は意外に多いのです。知らないと思わぬ徴税の憂き目にあう恐れのあるこの制度の注意点について解説します。
非課税枠が水の泡になる!?生前贈与にまつわる誤解
年間110万円までなら手放しで贈与できるという誤解
様々な生前贈与の中でも、最も簡単で手続きも不要な方法として、年間110万円までの非課税枠内での現金贈与がひろく利用されています。しかしこの制度に対してはいくつかの誤解があります。
決して110万円以内ならば手放しで非課税というわけではないのです。正しい知識のもと所定の対策をとっておかないと、年々累積して贈与を続けていた場合など、それがすべて課税対象になってしまうという事態にも陥りかねません。
第三者に証明するための相続契約書の重要性
家庭内で親子関係においてなにかをとりきめるとき、普通は互いに口頭で意思疎通すれば済むことです。ところが生前贈与においてこれはあてはまらず、契約書が必要なのです。
といってもそれは対外的な証拠のためで、税務署が生前贈与を認定する際にこの契約書がなければ実態が証明できないからなのです。
例えば、10年間毎年110万円を生前贈与した累積で現在総額1,100万円を受け取ったのか、実はその年一括で1,100万円を贈与したにもかかわらず、10年前から110万円枠の範囲内で贈与してきたように装っているのか証明できない場合、一括贈与とみなされることになるのです。
このとき、実態を裏付ける被相続人・相続人双方が自署した有効性の高い相続契約書などが提示できれば、不本意な徴税は回避することができます。
問題は相続時に起こる
実は相続契約書は100%作成しなければならないというわけではありません。税務署がチェックするのは過度の節税防止や制度の悪用です。客観的に見て疑わしいところがない限り税務署も積極的に生前贈与の認定を取り消そうとするわけではないといいます。
それでも相続契約書を用意しておくべきなのは、生前贈与の実態が証明できなくなる事態に陥ったとき、つまり被相続人が亡くなり本人の証言が得られなくなってしまったときの助けとなるからです。
相続時点において、もし後付けではない証拠が何も出せなければ、それは故人からの借金と見なされたり、兄弟からも疑惑の目で見られトラブルに発展するなど、税金面以外の問題も起こりかねません。
生前贈与の仕方についての俗説
110万円の非課税枠を少しだけ超え、あえて少額の贈与税をおさめることで、贈与の証拠を担保するという説を聞いたことがあるかもしれません。これは生前贈与につきまとうよくある誤解の一つです。納税イコール税務署にお墨付きをもらえるわけでは決してありません。
もうひとついわれるのが、毎年贈与額を少しづつ変えたほうがいいというもの。最初からまとまった金額を贈与するつもりがあって、その税金対策のため数年に分割して非課税枠内で贈与しただけとみなされないためのカモフラージュをすべき、という説です。
やはりこれも誤解で、よく考えればわかることですが定額分割が変額分割になっただけと見なされれば徴税を免れることはできません。そのようなテクニックよりも、財産を贈る側、受け取る側が正当な目的で正当に契約している実態こそが大切なのです。
生前贈与をはじめるタイミング
人生にはお金が必要な時期と比較的そうでもない時期とがあります。生前贈与という制度がもたらしてくれる一番の恩恵は、よりお金が必要な時期にある若い世代が資産を移転してもらい有効に活用できることです。
これまで書いてきたようにきちんとした客観証拠を残し、制度の枠内で行えば何ら問題はありません。しかし最後に注意を促しておきたいのが生前贈与の開始時期です。
被相続人が亡くなったとき相続財産が残されていると、そこから3年前までの生前贈与分を加えた額が相続税の対象額となるからです。
寿命は天のみぞ知る、とはいえ、できれば可能な範囲の早めの実行こそが、子孫のための生きた資産活用を可能にしてくれるのではないでしょうか。
まとめ
非課税枠が水の泡になる!?生前贈与にまつわる誤解
年間110万円までなら手放しで贈与できるという誤解
第三者に証明するための相続契約書の重要性
問題は相続時に起こる
生前贈与の仕方についての俗説
生前贈与をはじめるタイミング